訳者あとがき 高岡芳成 2009年3月 高木さんがとあるソーシャルブックマークサービスに原著のオンライン版をブックマークしたこと。それが全てのはじまりだった。ざっと読んでみたあと、これまでオープンソースソフトウェアの開発者が暗黙のうちに受け入れてきた、または実践してきたノウハウをここまではっきりと言葉にした文章は見たことがないと直感した。「これは皆に伝えなければならない」と思った瞬間、コミット権限を貰うべく奔走していた。 それから1年半、彼とふたりで亀のようなスピードで翻訳を続けてきた。正直、よく続いたものだと思う。お互いに本業がある中でペースを維持できたのは、原著が持つ濃い内容を日本語で是非伝えたいと思うモチベーションと、メーリングリストで原著者の Karl Fogel がくれた様々な励ましがあったからに他ならない。Karl はまさに「気配り」の人である。本書でもコミュニティを統治するに当たっての様々なものの言い方、気配りについて触れているが、彼はそれを忠実に実行しているように思えた。私は本書の翻訳を通して多くのことを学び、実際にメンテナーをしているプロジェクトの運営に生かすことができている。 日本語版を刊行するにあたっては、Karl と高木さんの他にも様々な方々の助けを頂いた。ここで全ての名前を挙げることはできないが、翻訳をレビューし、コメントをくれたスラッシュドットジャパンのユーザーの方々、そして直接メールで様々な指摘をしてくれた読者の存在は見逃せない。また、編集者の毛利さんには様々な細かい作業をして頂いた。さらに、フリーのオンライン版があることを知りながら、本書の出版を決めてくれたオライリー・ジャパンの懐の深さには敬服せざるを得ない。このあとがきを書いている今、ここまで辿り着 いたことを素直に喜び、彼らに心から感謝の意を表したいと思う。 翻訳というのは「代弁」ともいえる。たとえ代弁であっても、労力を払って伝えたいと思うネタってそうはないと思う。本書は私にとってまさにその労力を払うに値する内容であると信じているし、オープンソースソフトウェアに関心がある開発者にも影響を与えられる内容であると信じてやまない。この本がオープンソースの世界に飛び込む一助となることを願っている。 May the Source Be With You! -------------------------------------------------------------------------------- 高木正弘 2009年3月 原著「Producing Open Source Software」の全文がオープンソースで公開されていることを知ったのは2007年5月のこと。あるオープンソースコミュニティのメーリングリストが荒れているのを見かねた人が「みんなこれを読むといいよ」と紹介していらしたのがきっかけでした 。彼が紹介していた部分を読んで深く感銘を受けた私は、さっそくその日本語訳の作成に取り組むことを決めたのです。その頃には、まさか2年後に日本語版が出版されることになるとは思ってもいませんでした。 オープンソースソフトウェアのコミュニティを運営していくには、よいソフトウェアを書くこと以外にもさまざまなことを考えなければなりません。メーリングリスト上での争いのしずめかたなどもそのひとつです。これまで口伝で受け継がれていくことが多かったこれらの事柄を1冊の書籍としてまとめあげた本書は、オープンソースソフトウェアにかかわるすべての方にとって有用なものとなることでしょう。 日本語訳を進めていく上で、多くの方にお世話になりました。原著者のKarlFogelさんは、すばらしい内容の文章をオープンソースで提供してくださっただけでなく、私たちの翻訳作業を力強くフォローしてくださりました。彼からいただいたアドバイスや励ましのおかげで、翻訳作業をスムーズに進めることができました。翻訳作業の中盤以降は、共同翻訳者の高岡さんのパワーに助けられっぱなしでした。彼がいなければ、この翻訳が完成することもなかったでしょう。原著と同様、日本語版の原稿もまたオープンソースで公開されています 。そのおかげで、多くの方から翻訳へのフィードバックをいただきました。IRCやメールなどで何度となく細かい指摘をしてくださった方もいらっしゃいましたし、スラッシュドットジャパンにパッチを投稿してくださった方もいらっしゃいました。ここで全員のお名前をあげることはできませんが、みなさんの指摘はとても役立ちました。 そして最後に。全文がウェブ上で公開されている本書の書籍化を決断してくださったオライリー・ジャパン、出版にあたって数多くの手助けをいただいた編集の毛利さんのおかげで、みなさんのお手元に本書をお届けできるようになりました。私が原著から影響を受けたのと同様、みなさんが本書から何かを得ていただくことがあれば幸いです。